人事コラム

中途採用社員の即戦力化が難しい理由

第二新卒をはじめとして中途採用、つまり経験者採用が活発化してきています。年功序列の終身雇用制度がなくなりつつあり、また退職金を設定しない企業も増えてきたことから、従業員にとって転職しやすい環境になってきました。また、転職エージェントも積極的なプロモーション活動を行っており、ネット上、電車の中、バスの中・・・とビジネスパーソンが日々目にする箇所に効果的な広告を打っていることも、転職希望者増加の一因となっているでしょう。

企業側から見れば、次々と新しい人物が入社してくるというこで、新しいノウハウや知識を持った仲間が増えることで新しいソリューションを生み出すメリットがあります。しかし、なかなかうまくいかないという現実もあります。他社での経験が長ければ長いほど、新しい企業に適応できないという現実があるからです。「なかなか適応できない人や、なんとか適応しようと明らかに無理している人が多いです」と上場企業の人事部長は漏らします。要するに、中途採用社員は、即戦力化しないのです。

どうすれば、中途採用社員は戦力になるのでしょうか。学術的には以下の4つのポイントをクリアすると、新しい企業に適応し戦力になるとされています。これを“組織再社会化”と言います。

人脈政治知識獲得
学習棄却(アンラーニング)
評価基準・役割獲得
スキル・知識獲得

「人脈政治知識獲得」は、企業の組織構造であるとか、各部署の役割であるとか、企業の外からでは分からない社内で組織人として活動していくために必要な知識を獲得するということです。階層や役職だけではなく、実質的に決定権があるのは誰か、最も発言力があるのは誰か・・・・など、見極めていかなければなりません。

「学習棄却」は、現在の職場で通用しない以前の職場でのやり方・考え方・知識を放棄するということです。これが一番難しいと言われています。誰もが自身の営業スタイルや仕事の進め方に少なからず自信を持っていて、プライドを持っています。新しい企業に適応するためには、それらを一度忘れなければなりません。なかには、この「学習棄却」をアイデンティティの崩壊と捉える人もいます。

「評価基準・役割獲得」は、新しい会社において、上司や顧客から何を求められているか、仕事のリクエストレベルと果たすべき役割を明確にし、獲得するということです。求められているものがわからなければ、適応するわけもありません。

そして、最後に「スキル・知識獲得」となります。現在の仕事で必要なスキル・知識を獲得するということです。本から知識を得ることもあれば、新しい企業の同僚から話を聞いて知識を得ることもあるでしょう。

一度でも転職した経験がある方であれば、この4つのポイントは納得できるものではないでしょうか。この4ポイントをできるだけ速やかにクリアすることにより、中途採用社員の即戦力化が叶います。中途採用社員が即戦力とならず課題となっている企業の教育担当者は、この“組織再社会化”注目していただくことをお勧めします。

経営コンサルタント。企業分析をもとに、採用・育成などの人材戦略を手掛けている。2000社を超える取材・インタビュー経験を有し、現在は約100のクライアント企業を抱える。経営者、人事担当役員・責任者から生の声を得ながら、「エコノミスト」「ダイヤモンド」等の週刊誌、「Wedge」「選択」等の月刊誌に幅広く執筆中。

人事担当はマニュアル人間?!

労務行政研究所の発表によると、人事部門が「現在力を入れていること」のトップは「労働に関する法令順守」となっており、「人材育成」は第4位です。しかし、「将来、需要が高まるもの」でみると、「人材育成」がトップ、「メンタルヘルスケア」が第2位となっています。この結果からも、人事部門が板挟みとなっている理想と現実が見て取れます。従業員を育てたり支援したりするのが本来の人事部門の役割であると認識しながらも、日々、実際にやっていることは、残業チェックや休日出勤対応、従業員が起こしたトラブルの解決ばかりであるということでしょう。

そもそも、人事部門の役割は大きく分けて4つあります。
採用
教育・研修
人事労務管理
人材配置、人事制度設計を含む人事戦略

それぞれが専門知識を用いて業務を遂行する必要があるため、人事部門に十分な人員が割かれている大企業であれば、それぞれに担当がついています。しかし、中小企業ではこうはいきません。従業員数が100名を切っている企業であれば、多くの場合が、4つの機能を一人で担当しています。その結果として、人事部門担当者の業務量が膨張し、メンタル不調を訴える人が出てくることも珍しくありません。

業務を確実に、そして的確に処理していくために、人事担当者は、「人事労務管理などのルーティン業務をこなすための専門知識と、処理能力(オペレーティブな仕事を回す能力)」「人事戦略を企画・立案するための専門知識と、実行のための対人折衝能力(戦略的な仕事を行う能力)」を身につける必要があります。

しかし、ここに壁があります。人事部門の業務は季節性の高い業務が多いため、同一業務を短期間に複数回経験することが不可能なのです。採用活動は年一回ですし、年末調整に至ってはごく短期間に集中して実施するのみです。こうした簡単には実務を経験できない状況ですので、疑似的に業務をイメージさせるために、詳細な業務マニュアルを作る必要があるでしょう。ルーティンワークも多いので抜け漏れがないように対応していきます。

そうなのです!実は人事部門の担当者こそマニュアル人間である可能性が高いのです。(中小企業の人事関連業務をすべて一人で行っている担当者の場合に限りますが。)面接では「自分で考えて行動する人」を求めている人事部門担当者ですが、その求める人物像は、実は自分自身のウィークポイントであるかもしれません。



経営コンサルタント。企業分析をもとに、採用・育成などの人材戦略を手掛けている。2000社を超える取材・インタビュー経験を有し、現在は約100のクライアント企業を抱える。経営者、人事担当役員・責任者から生の声を得ながら、「エコノミスト」「ダイヤモンド」等の週刊誌、「Wedge」「選択」等の月刊誌に幅広く執筆中。

ジョブローテーションの必要性低下中

年の変わり目、年度の変わり目にジョブローテーションを行う企業は多い。ジョブローテーションをいうと、単なる配置転換と捉える方も多いと思いますが、ジョブローテーションの本質は社員の所属部門を動かすということではなく、企業の人材育成計画に基づいた人事戦略、戦略的人事異動でなければなりません。しかし、残念なことに、当初、ジョブローテーションを導入した担当者の思いは戦略的人事異動だったとしても、時が経つにつれ、担当者自身の入れ替わりを経て、単なる“風物詩”となっている会社が非常に多いのです。部門長からすると、「新年度になるから、誰かうちの部署から出さないとな~」といったところです。

そもそも、ジョブローテーションは、終身雇用を前提とした企業内においてゼネラリストを育成しようとする日本ならではのシステムです。会社内の各部署で様々な業務を経験し、歳を重ねると同時に経営幹部に近づいていくというものです。ですから、昨今のように転職市場が活発化し、人材の流動性が高まってくると、機能しなくなるシステムと言えるかもしれません。

ジョブローテーションには、これを実施することによるメリットとデメリットがあります。
メリットとしては・・・
・多様な業務を経験するので、適材適所を把握し配置することができる
・複数の部門を経験するので、視野の拡大やより高い視座の獲得が期待できる
・様々な人と交わることで、企業内のコミュニケーションが円滑になる
・マンネリ化を防ぎ、従業員満足度向上や離職率の低下が期待できる

一方、デメリットとしては・・・
・一定期間で異動となるため、スペシャリストの育成が困難となる
・異動後は一時的に業務スキルが低下し、生産性が低下する
・希望しない異動により、当該社員のモチベーションを下げる可能性がある
・給与体系が職種によって異なる場合、導入にハードルがある

終身雇用という前提が崩れつつある今、ジョブローテーションの必要性が低下しているのは間違いありません。デメリットばかりが目についてしまうような会社も出てきています。

そのため、現在ではジョブローテーションに変わって、新規事業などの要員について希望者を募る「社内公募制度」(求人型)や、社員自らがキャリアやスキルに基づき異動を希望する「社内FA制度」(求職型)を取り入れる企業が増えてきています。どの制度を利用するにせよ、社員のモチベーションを維持しつつ、幹部候補者を選定、育成するというかじ取りを経営層、人事部門はしていかなければなりません。



経営コンサルタント。企業分析をもとに、採用・育成などの人材戦略を手掛けている。2000社を超える取材・インタビュー経験を有し、現在は約100のクライアント企業を抱える。経営者、人事担当役員・責任者から生の声を得ながら、「エコノミスト」「ダイヤモンド」等の週刊誌、「Wedge」「選択」等の月刊誌に幅広く執筆中。