東日本大震災と企業倒産

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2011年2月の倒産件数は前年同月比8.5%減の884件で、2ヵ月ぶりに前年同月を下回った。倒産件数が800件台となるのは、2010年5月(879件)以来9ヵ月ぶりのこと。2月としては2007年(818件)以来4年ぶり。2011年1月は前年同月比2.8%増と微増ながら1年5ヵ月ぶりに増加に転じていたが、2月は再び減少することとなった。政策支援の縮小・終了、雇用・所得低迷、デフレなどのマイナス要因があるなか、金融円滑化法による倒産抑制効果が続いているほか、内閣府が2月の月例経済報告において景気の基調判断を2ヵ月連続で上方修正するなど国内景気が穏やかながらも回復傾向を示しており、2010年度後半の倒産件数は一進一退の推移であった。
 
2010年度の上場企業の倒産を見ても、消費者金融大手の(株)武富士や、有名エステサロン経営の(株)ラ・パルレなど9件発生したものの、45件の上場企業倒産が発生した2008年度と比較すると落ち着きを取り戻している。国内景気がリーマン・ショック後の最悪期を脱し、上場企業の倒産が沈静化したと考えられる。

このように、このまま当面の倒産件数は横ばい水準を辿ると予測されていた。しかし、3月11日に東日本大震災が発生したことにより、先行きがまったく見えない状態に突入することとなった。阪神・淡路大震災は被災エリアが局地的だったが、今回は違う。岩手県、宮城県、福島県の企業が甚大な被害を受けているほか、青森県、茨城県、栃木県で被災している企業も多い。被害額が10兆円とされていた阪神・淡路大震災をはるかに上回る被害額が想定され、復興には時間がかかるとみられる。さらに、福島第一原子力発電所のトラブルで電力が大幅に不足したことにより、東京電力は管内の1都8県(東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県、静岡県)で計画停電を実施することを3月14日に決定した。今後、長ければ最需要期の夏を過ぎるまで多くの企業が停電の影響を受けることになる。飲食店などのサービス業や、稼働時間により生産能力が決まる工場などには、特に大きな影響が出そうだ。

今回の震災対策として、中小企業庁は資金繰り支援策を発表している。ひとつは政府系金融機関による災害復旧貸付の実施。もう一つは、保証協会による災害関係保証である。当然、審査は行われるが担保の扱いも弾力的となる見込みで、多くの被災企業の窮地を救うと思われる。また、金融機関やリース会社など、被災企業からの支払いを猶予する動きも出ており、震災による倒産が急増するという事態は避けられそうだ。しかし、阪神・淡路大震災の際、兵庫県内の倒産が震災発生1年後から増加傾向に転じたことから、今回も長期的な視点で倒産件数の推移について見守ることが必要であろう。

経営コンサルタント。企業分析をもとに、採用・育成などの人材戦略を手掛けている。2000社を超える取材・インタビュー経験を有し、現在は約100のクライアント企業を抱える。経営者、人事担当役員・責任者から生の声を得ながら、「エコノミスト」「ダイヤモンド」等の週刊誌、「Wedge」「選択」等の月刊誌に幅広く執筆中。

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